歯科では、治療中の痛みを感じさせないために麻酔を使うことが多々あります。
「麻酔をしてもらったけど、全然効かなかった。」
「麻酔をしたのに、痛くて耐えられない。」
そんな経験ってないでしょうか?
今日はそんな、麻酔が効きにくい人についてです。
歯科の麻酔について
歯の治療においてよく使われるのは、表面麻酔と浸潤麻酔、伝達麻酔。
使う麻酔薬は同じでも、麻酔を打つ部位や方法によって効きやすさが異なります。
麻酔薬にもいくつか種類がありますが、麻酔の効果に大きな差はありません。
つまりどの麻酔薬を使っても、痛みを遮断するという根本の役割は変わりません。
しかし、実際に治療時に麻酔をしても少量の麻酔でしっかり効く場合と、追加追加で麻酔をうっても効きが悪い場合とがあるのは事実です。
一体、何に差があるのでしょうか?
麻酔の針を刺す部位
むし歯の治療を行う際に単に麻酔をするといっても、実は歯医者さんは針を刺す部位を微妙に変えています。
歯ぐきに麻酔の針を刺すということには概ね変わりはないんですが、歯ぐきのどこに針を刺すのか。
細かく歯ぐきのここら辺にうつとか、そこにうった後ここにうつなどといった話は専門的な内容のため割愛します。
しかし、初めから短時間でしっかり効かせようとするとそれなりに麻酔自体が痛いということも否めません。
どの部位の治療を行うか
麻酔が効きやすい、効きにくいの違いは治療をする部位によって差があります。
つまり、上の歯なのか下の歯なのか、前歯なのか奥歯なのかということです。
下の歯より上の歯のほうが麻酔が効きやすく、奥歯より前歯のほうが麻酔が効きやすいのです。
麻酔の効きやすい順番は、上の前歯⇨上の奥歯⇨下の前歯⇨下の奥歯です。
よく「下の親知らずを抜歯したときに麻酔が効きにくかった」という話を聞きますが、下の親知らずは下の一番奥の歯なので、歯の中で一番麻酔が効きにくい部位なのです。
骨の質
歯医者さんで主によく使う麻酔は浸潤麻酔といって、麻酔薬が歯ぐきや顎の骨に浸み込んで効果を発揮します。
骨は2層になっていて、表面は緻密で硬い皮質骨、中のほうはすう疎な海綿骨でできています。
当然硬い皮質骨は麻酔薬が浸透しにくいため、この皮質骨が厚い場合、麻酔の効果が出にくいと言えます。
先ほどの上の歯より下の歯のほうが麻酔が効きにくいというのは、下あごの骨のほうが上顎の骨より皮質骨が厚く、骨の密度も下あごの骨のほうが高い傾向にあるというのがその理由なのです。
歯の神経は顎の骨の中を通り、歯の根っこの先から入り込んでいます。
そして歯は顎の骨の中に埋まっていますので、骨の外から麻酔を効かせようと思うと、骨が厚いほど、緻密であるほど麻酔が効きにくいのです。
症状(炎症)の度合い
麻酔を使うタイミングは症状が強くて麻酔をしないと治療ができない場合と、抜歯のように今は症状は強くないけど治療の際に強い痛みを伴う場合とがあります。
痛みがあるときは強い炎症を伴っている場合で、痛みがないときは炎症は弱い場合ですが、これらによっても麻酔の効きやすさに差が出てきます。
組織が炎症を起こしているとき、組織は酸性に傾いています。
麻酔薬はアルカリ性で、炎症を起こしている酸性の組織に麻酔薬を作用させても、それが中和されてしまい効果が薄れてしまうのです。
つまり、炎症が強いほど酸性に傾いていて、麻酔が効きにくくなってしまうのです。
「下の親知らずが痛くなったので抜歯してほしい」という患者さまも多くいらっしゃいますが、下の奥歯で炎症が強い場合は最も麻酔が効きにくい状況なので、「今は炎症が強く麻酔が効かないため、お薬で炎症を抑えてから抜歯しましょう。」と言うことが多くあります。
その場合は抗生物質や消炎鎮痛剤、うがい薬などを処方して炎症が収まってから抜歯を行います。
下の奥歯がむし歯でズキズキ痛いといった場合も同様で、麻酔が非常に効きにくいことがあります。
麻酔が効かないままの抜歯なんて痛いだけではないでしょうか?
緊張・興奮状態
以前歯医者の麻酔で痛い経験があったり、麻酔や治療に対する不安が強かったりすると、痛みに対して敏感になります。
例えば心霊現象を経験したり、家の中におばけがいるかも・・・?と思うとちょっとした物音や気配に敏感になりますよね。
それと同じで、恐怖を意識すればするほど、それに対して敏感に(痛みを感じやすく)なってしまいます。
体調不良
体調の優れているときに治療を受けるようにしましょう。
睡眠不足や体調不良により麻酔が効かなかったり、いつもは感じないような違和感を感じたりすることがあります。
体調が悪い場合は無理せず予約を取り直しましょう。
飲酒・服薬
普段からアルコールを多く取っていたり、うつ病のお薬や痛み止めをずっと飲んでいると麻酔が効きにくくなることがあります。
また歯医者の麻酔で気分が悪くなったことがある場合は、お薬手帳を持参して必ず歯科医師に伝えましょう。
麻酔が効きにくい理由まとめ
- 炎症(痛み)が強くて組織が酸性になっている
- 下の奥歯は、周りの骨が固いため麻酔液が浸潤しにくい
- 膿が溜まっていたりする
- 興奮や緊張している
- 日常的にお酒やカフェイン、お薬を摂取している
- 体調が良くない
体質的に麻酔が効きにくい方はいらっしゃいます。
そのような方でも、麻酔の量を増やすことで基本的に麻酔は効きます。
しかし、局所麻酔薬は使える量に限りがあるため、効くまで追加ができないこともあります。
麻酔の効きやすい、効きにくいというのはいろいろな要因があります。
骨の厚みや質は人によって差がありますので、それを考えると麻酔が効きやすい人と効きにくい人がいるのがわかったと思います。
しかし、同じ人でも麻酔をする部位や炎症の度合いによって麻酔が効きやすい場合と効きにくい場合があるということもあります。
今後もし歯医者さんで麻酔が必要な治療を行う場合は、今回の内容を頭の片隅にでも入れて治療に臨んでいただけると心の準備もできるのではないでしょうか。