歯の相談を受けるとき
「うちは家系的に歯が弱くて、私も将来入れ歯になるんじゃないかと怖いんです」
なんてことを言われることがあります。
この台詞には2つの勘違いが含まれているように思いますので、
先に少し解説してみたいと思います。
まず1つ目の勘違いは「歯が弱いから入れ歯になる」ということ。
入れ歯になるということは歯が根っこごとなくなるということです。
歯を根っこごと失う大きな原因の1つが虫歯です。
したがって「歯が弱いから入れ歯になる」のは全くの間違いではありません。
しかし歯を根っこごと失う原因で虫歯と1位の座を争うのは歯周病です。
特に成人では歯周病が虫歯を抜いて第1位を占めます。
歯周病は歯の周りの組織が溶ける病気で、歯そのものが弱いのは関係ありません。
確かに虫歯の治療で歯を削ったりすると、
同じ歯でも人によって硬さが違うと感じることがあります。
でも歯がいくら硬くて強くても、
それを支える歯肉や骨が炎症を起こして溶けてしまっては、歯が抜け落ちてしまいます。
「私は虫歯が1本もなくて、今まで歯医者にかかったことがないのよ」
と自慢している人に限って、実は歯周病が進行していて、
気が付いたときには手遅れ…という話もよく耳にします。
歯を長持ちさせるためには、歯はもちろん、歯周組織も大切のすることが必要なのです。
そして2つ目の勘違いは「歯が弱いのは家系的なもの」ということ。
歯の強さ、硬さは家系や遺伝的要因よりも生まれてから、
または歯が生えてからの後天的要素が強いように思います。
特に虫歯というのは感染症ですので、遺伝とはまた違うといえるのではないでしょうか?
もちろん、歯は母親の胎内にいるときから形成されているので、
母親の栄養状態などにも左右されますが、
それとともに歯が生えた後のケアやメンテナンスの方が大きく影響します。
■親子の歯質は同じなのか
「私の両親は昔から虫歯や歯周病で苦労しています。親に似て私の歯も弱いの?」
これもよくある質問の1つです。
この質問の答えは「そうかもしれませんね。」です。
「なんともあいまいな・・」と思われることでしょう。
しかし、「歯や歯肉の強い弱いが遺伝するかどうか?」の答えはYESでありNOでもあるのです。
いったいどうゆうことなのでしょうか?
■YESの理由、NOの理由
まずは、なぜYESなのでしょうか?
例えば歯周病の直接的原因は細菌だといわれています。
これらの細菌が住みやすいお口の中の環境が遺伝したり、親から子へと細菌感染が起こったりすることは十分考えられるのです。
虫歯については、子は親と同じような食生活や生活環境になりやすいと言えます。
結果、親に似て虫歯になりやすいという状態につながると考えられるのです。
次に、なぜNOなでしょうか?
細菌や生活環境だけが虫歯や歯周病を発生させるわけではありません。
タバコ、ストレス、薬の長期使用、老化、歯並び、かみ合わせも原因となるのです。
また、[糖尿病] [白血病] は特に歯周病が発生しやすい病気だといわれています。
これらは遺伝とは直接関係なく、身の回りの要因が症状を増長させるとの考えです。
■弱い人には可能性がある
正直、このような質問をされる裏には「歯を一生懸命磨いていても虫歯や歯周病になる人もいれば、磨かなくても大丈夫な人もいる。」
「不公平だ!矛盾してる!」と思う気持ちが隠れているのではなでしょうか?
しかし、自分が虫歯や歯周病になりやすいからと投げ出さず前向きに取り組んでください。
日々の努力や歯科と協力でのり越えられることは多いのです。
弱い人ほど意識して大切にします。
それは可能性へと繋がるでしょう。
虫歯予防の意味で言えば、毎日の歯磨きはもちろん、
フッ素やリカルデントなどで歯を強くすることができますし、
歯周病予防では定期的に歯科医院で歯のクリーニングや歯石取りなどをすることが大切です。
また矯正歯科治療で歯並びやかみ合わせを整えることは、
虫歯予防にも歯周病予防にもつながる、とても価値あることです。
歯を長持ちさせる環境づくりをするのが矯正歯科治療だと言えるでしょう。
歯の悩みやトラブルを生まれつきのものだと諦めるのではなく、
歯を守る環境を自分で作るんだと前向きにとらえて、
一生自分の歯で噛めるように歯をを長持ちさせましょう!